構え → ステップ → スイング → インパクト → フォロー
以上の5動作に分けられます。
それぞれの動作には、確実にボールをとらえるための重要な要点が隠されています。
この連続写真は、各動作ごとの要点を正確に行える中日ドラゴンズOBの川又さんの水平打法(レベルスイング)です。この野球教室では、この水平打法を基本において動作を解剖し、各動作の要点を解説しましょう!
※水平打法=球道に対して水平にバットを振ります。決して、地面に対し水平に振る打法ではありません
選球眼 = ボールを見極める力
投手が投げたボールが直球か変化球か、高めか低めか、スピードはどの程度かなどを見極める力です。
ボールが投手の手を離れてホームベースに到達するまでプロ野球では0.5秒以下、時計の秒針がひとつ動く時間の半分以下です。この瞬間だけでボールの球種 やコース、スピードなどを見極めることができるのでしょうか。このようなスポーツ選手の「見る能力」を測定・評価する科学分野があり、スポーツ活動中の目 の機能・役割などを総称してスポーツビジョンと呼んでいます。この分野で活躍している石垣尚男先生(愛知工業大学教授 スポーツ視覚学)に伺ってみまし た。
目の機能にはどのようなものがあるか代表的なものを挙げてみましょう!
「静止視力」 皆さんが良く知っている視力検査で測ります。
「動体視力」 動く物体をはっきり見る力
「コントラスト感度」 微妙な明暗を識別する力
「眼球運動」 目の動きの良さ
「深視力」 距離を感じる力
「瞬間視」 一瞬で多くのものを識別する力
「目と手の協応動作」 見たものの動きに素早く対応する正確性と速さ。
※どれをとっても投手の投げたボールをほんの一瞬で見極めるためには、重要な機能ばかりです。
左図
(1)目からの情報は、光が網膜(もうまく)に投影(とうえい)されると視細胞(しさいぼう)から視神経(ししんけい)を通して後頭葉(こうとうよう:頭の後ろ側の脳)にある視覚野に送られます。ここで形や色、立体感などが認識されるわけです。
(2)視神経の伝導速度は毎秒100mと速く、瞬時の映像転送が可能です。このようにして脳に送られた映像からミートポイントを予測します。
(3)ミートポイントに向かってバットを動かすためには、脳からスイングに使う筋肉に命令を送らなければなりません。「運動神経」という言葉がありますが、今ここでは脳から筋肉へつながっている神経のことをこう呼ぶことにします。
(4)脳からの命令を伝達する運動神経は伝導速度が視神経の約3分の1と遅く、また手足は脳から遠い(目から脳までの5~10倍)ため、命令が到達するのにより多くの時間がかかります。
(5)目から情報を得て手の筋肉に命令が到達するまでには、0.1秒程度かかるのが普通です。この神経伝導時間は、トレーニングで容易(ようい)に変わるものではありません。
(6)神経系の発達は10歳くらいまでで、その後はあまり変わりません。成人を過ぎるとむしろ老化の一途をたどります。
若いうちに神経系を鍛えて(きたえて)おくことは優れた(すぐれた)「見る能力」・「運動感覚」を身に付けるためにとても重要だと石垣先生は説明します。
(1)脳からの命令が筋肉に達すると、筋肉は収縮(しゅうしゅく)して力を発揮し、関節を動かします。
(2)この筋力(きんりょく)は、筋肉を構成する筋繊維(きんせんい)という糸状の細胞が何本収縮するかによって違ってきます。
(3)運動神経1本が数本から数10本の筋繊維を支配していて、脳は何本の運動神経に命令を出すかによって力加減を調節します。
(4)それぞれ関節で使用する筋肉が違うので、脳ではどの筋肉をどの程度の力で動かすかを判断しなかればなりません。
(5)実際の選球ではこの判断時間が先の神経伝導時間に加わります。判断が複雑なほど判断時間が長くなって脳からの命令発信が遅れます。
脳での判断時間は、何度も練習するうちにどの筋肉をどの程度使うとどうなるかを学習して、短くなります。
左図
石垣先生の調査結果の中に、打者が投手のどこを見ているかを調べたものがあります。テレビの画面の投手を見ながらその球種とコースを当てる実験で、打者の 注視点(ちゅうしてん:視線が向いている場所)は、+印が集まっているところ(だ円の中)に集中していました。
投手の頭と腕の間、肩の上あたりです。ここには焦点(しょうてん)を合わせるべきものがありません。一体どうなっているのでしょうか。
石垣先生:「テレビ画面を利用しての実験なので奥行きが確かめられないのですが、おそらくリリースポイントを先に見ているのではないか」
と考えているそうです。リリース後のボールは時速100km以上の速度で向かってくる ので、リリースしてからボールを追いかけようとしても手遅れになる。そこであらかじめリリースポイントを予測して先回りして見ていると考えるのが妥当(だ とう)です。※石垣先生の調査対象は、大学生です。
木俣氏の場合
投球モーションのときからずっとボールだけを追いかけていたそうです。投手によって、体や頭の後ろにボールを持つ手が隠れて(かくれて)見えにくい場合も ありますが、なるべく長くボールを見るように心掛けていたそうです。体を開かず、頭の後ろから急に手が出てくる投手の場合は、合わせにくかったそうです。