私がドラゴンズの二塁手として現役時代心がけていたのは、「ひとつ先のことを読んでプレーすること」と「いかに確実に捕って、早く投げるか」という2つです。いずれも必要とされる身体能力は、敏速さ(瞬発力)と正確性です。内野手に限らず野球選手にもっとも必要な筋力は瞬発力ですが、特に内野手は前後左右どこに飛んでくるかわからない打球を確実に捕球して、素早く一塁手や他の内野手に返球しなければならないため、下半身の動きと視力が重要となってきます。余談となりますが、1980年現役引退を決意したのは肉体的には視力の衰えが引き金となりました。まず、内野手の構えに移る前の動きについて解説していきましょう。
写真1.はピッチャーが投球モーションを起こす前から、打者が打った瞬間までの私の動きです。
最初に言ったように、打球は前後左右どこに飛んでくるかはわかりません。熟練すればある程度予測することも可能ですが、逆に言えば、どこに飛んできても捕球できるように前後左右動けるようなスタート、第一歩を素早く切れるように構えます。
写真1.では、腰を低く落とす構えまでの間小刻みに動いています。打球に素早く反応するためには、体が静止しているよりも動いていたほうが良いためです。ピッチャーの投球のリズムにあわせて、小さな足踏みをしながら、その動きを利用してスタートしています。
グラブは親指をしっかり入れ、残りの4本は深く入れすぎないようにしましょう。自軍ピッチャーがリリースすると同時にしっかり構えるというタイミングでいいでしょう。なお、キャッチャーのサインを見ながらピッチャーの投げる球種と方向と打者のバットコントロール・くせなどで守備位置をピツチャーのリリース前に変更するということを現役時代しばしば実行しましたが、これも下半身がいつでも動ける状態であることが前提です。
■腰を曲げてひざは軽くまげて前傾姿勢をとる。
写真2.は内野手の基本的な構えです。
(1)両足は肩幅よりやや広く、指先は外側に開きます。
(2)ひざ、腰、内股をやわらかくして低い姿勢(相撲の股割り)をとります。
(3)アゴを上げ、バッターを注視します。
(4)ピッチャーの投球のリズムと呼吸を合わせ、リリースの瞬間、両腕をかるく持ち上げます。手首はゆっくり、柔らかくしておきましょう。またこの時は、重心を足の親指の付け根あたりにかけます。
(5)腰を曲げてヒザは軽くまげて前傾姿勢をとります。
この姿勢が前後左右に動きやすい理想的な構えです。よく「かかとを上げて」と言われますが、あまりかかとを上 げすぎると前進はともかく左右後ろへのスタートには不利になりやすいため、かかとは浮かすという感覚で十分でしょう。また、この低い姿勢は内野手の場合ゴ ロ捕球が多いため目線は低いほうが正確に捕球しやすいからです。プロ野球の世界でも、遊撃手や二塁手には大型選手が他のポジションに比べれば少ないのはこ んな理由ではないでしょうか。この低い姿勢のまま、1球ごとにスタートに備えることが重要です。
(6)打者のスイング始動の時、どちらかの足を小さく前方に踏み出しスタートにつなげます。
(7)インパクトの寸前、両足で小さく撥ねるにしてタイミングをとりスタートにつなげます。
内野手はすべての打球が自分のところに飛んでくると思って準備しておくことが必要です。1歩目のスタートの良し悪しがアウトかヒットかの分かれ目であると覚えておいてください。
この低い姿勢を保つためには、相撲でいう股割りの姿勢を長時間保つための内股を鍛えなければなりません。大リーグで活躍するイチロー選手はバッターボックスに入る前や練習の時には必ず股割りをしています。内野手に限らずヒザ、内股をやわらかくするための柔軟運動は野球選手には必要です。
写真3.は左右にステップしながらシコをふむ練習です。これを何回も繰り返して内股を鍛えてください。グランド上だけではなく自宅でも簡単にできるトレーニングですので、毎日繰り返し実行することによって、守備の構えの低い姿勢が苦になりません。