前回までは打席での最初の構えについて説明してきました。グリップや足の位置が決まり、リラックスしたい形の構えができたら、いよいよ投手のモーションを 見ながらタイミングを見計らってステップを開始します。しかしその時、もう1つ重要なことがあるので先にそこから見ていきましょう。
川又氏の分解写真を見て下さい。過去4回の野球教室では一番右端の写真の説明でした。しかし、2番目、3番目とステップを開始していくのと同時に、それまで後ろの肩の前にあったグリップの位置が、さらに後方へ動いているのが分かるでしょう。この3番目、4番目の、最も後方へ引かれた位置がトップの位置。そこまでグリップを持っていく動作をテークバック、あるいはバックスイングと呼びます。
(1)構えの状態でわずかに空けていた前のわきを締め、前の腕の上腕部(じょうわんぶ)を胸に引き寄せます。
(2)グリップの高さは、肩の位置で上下動がほとんどないことも重要です。
(3)前の腕が伸びきってしまってはバットが体から離れすぎ、振り出しに時間がかかってしまうのでよくありません。
(4)テークバックを開始する時期はステップ開始とほぼ同時か、やや早めに行います。ステップ中盤では、既に完了しているといいでしょう。
※ひじに少しゆとりのある川又氏の形が、理想的なトップ位置です。
以上のことによって、前後左右いずれの方向に対しても動きやすくなると同時に、安定性が確保されます。但し、このままですべてのスポーツに通用するわけではありません。
※物体には、止まっているものは止まり続けようとし、動いているものは同じ動きを続けようとします。そして、バットのように重さが場所によって均一でない形状の物体は、例えばボールのような物体に比べより強く受けます。
アドバイス: バットの重心位置(ヘッド側)から遠く離れたグリップを動かしても、ヘッドは動きにくいという特性があります。
※この時、まだグリップは最初の構えの時と同じように軽めに握られています。もしもこの時点で力が入ってしまいますと、操作性(そうさせい)も悪い上にグリップとヘッドも後方に下がってしまい力の出しにくい形になります。
【トップの高さ】
『トップが低いとボールの下をたたき、高いとボールにバットを合わせにくい』
トップの位置は、テークバックの終点にしてスイングの出発点になりますから、バットをスイング軌道に乗せるために重要です。スイング軌道を分析すると、
(1)最初に振り下ろし
(2)続いて球道に対して球を迎え撃つための最適な高さを通ってインパクト
(3)その後フォローで振り上がる
以上が一般的です。単純に言えば振り下ろし後、振り上がるという軌道になります。
※振り下ろしの際には、地球から重力の手助けが得られます。
●トップの位置が低い場合(写真(1))
アドバイス1: 既にバットは球道と同じ高さにあります。
アドバイス2: 重力を利用した下方向への動きは少なく、横方向への動きばかりになります。
アドバイス3: グリップだけが横へ動きバットは倒れていきます。
アドバイス4: バットの中でヘッド部分が最も重いですから、倒れ始めたバットはさらに倒れてヘッドが完全に下がってしまいます。
アドバイス5: 水平に振っているつもりでもバットが下から出ます。
※低いトップからのスイングでは、このようにボールの下側を打つことが多くなります。
●トップの位置が高い場合(写真(2))
アドバイス1: 重力を利用して振り下ろすという意味ではより大きな効果が期待できそうです。しかし、
アドバイス2: 球道に対してスイング軌道を合わせることが重要です。
アドバイス3: 低めのボールに対してスイング最初の振り下ろしが急激になり、的確に合わせることも難しくなります。
アドバイス4: バットを自由自在に振り回す筋力、どのような状態からでも制御できる能力が必要になります。
※いくら重力が利用できてもスイング軌道が長くなり、タイミングが遅れる可能性も高まります。
「的確なトップの位置は重力も利用でき、球道に対してスイング軌道を合わせやすいということが基本になります。」
体の後方からのチェックも有効!
(写真(3))
頭で分かっていても体で表現できないのは、自分自身のやっている姿が自分で観察できないからです。しかもテークバックは、投手方向に顔を向けている打者にとっては、見えない場所で行われている作業です。
構えているときは適正な位置にあっても途中でずれたり、いざスイング開始というときに下がったりという選手が多く見られます。
2人1組になってチェックしよう!
●1人の選手はバットを持って、ゆっくりスイングしましょう。
●もう1人の選手は、スイングする選手の後方(キャッチャー側)に立ち観察します。その時、近づきすぎてバットに当たらないように注意しながら、スイングする選手のトップ位置が正しいかどうかをチェックしましょう
構え → ステップ → スイング → インパクト → フォロー
以上の5動作に分けられます。
それぞれの動作には、確実にボールをとらえるための重要な要点がかくされています。
この連続写真は、各動作ごとの要点を正確に行える中日ドラゴンズOBの川又さんの水平打法(レベルスイング)です。この野球教室では、この水平打法を基本において動作を解剖し、各動作の要点を解説しましょう!
※水平打法=球道に対して水平にバットを振ります。決して、地面に対し水平に振る打法ではありません。